広島高等裁判所岡山支部 昭和28年(う)294号 判決
しかしながら、誘導尋問による供述も、一概に任意性を否定し去るべきものではなく、それが虚偽の供述を誘発する程度に達した場合にはじめて任意性を失わしめるものと解するを相当とするばかりでなく、たとえその任意性に疑がある場合であつてもその供述が証人の公判廷における証言である場合の如きは刑事訴訟法第三百十九条の適用外に属しそれによつて直ちにその証拠能力を失わしめるものではなく、ただその証明力を減殺するに過ぎないものである。しかして本件において、検察官の所論尋問が、論旨の如く証言の任意性を失わしめる程高度の誘導を伴つていたと認め得るような資料はないし、また刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段のいわゆる公判期日において前の供述と異つた供述をした場合に該るか否かの判断も、論旨の如くこれを主尋問に対する供述のみに限局すべき理由は毫もなく、本件の如く反対尋問の結果としてはじめて、同一事項(犯人の特定に関する見聞)につき前の供述と実質的に異つた供述のなされた場合をも包含するのは当然であり、右証人の公判廷における証言が、被告人の面前でその素行、経歴から受ける強い恐怖の下になされたものであるに比し、検察官に対する所論調書中の供述がこのような高度の恐怖を伴わず、より高い信用性の保障のあることは、両調書の記載を一見して明瞭である。原判決もまたこのような判断の下に同証人の公判廷における証言及び検察官に対する供述調書の証拠能力を認め、同証言中の盗難事実の存否及び反対尋問に対する供述のうちで特に措信するに足る部分と、検察官に対する供述調書中の犯人の特定に関する供述部分等を証拠に供したものと認められるので、所論のような違法はない。